2024年5月9日に発生した火災から、本日でちょうど一年を迎えました。あの日、私たちは酒 蔵とともに、これまで築き上げてきた多くのものを、一瞬にして失いました。二百年あまりの歴史を刻んできた空間、酒造りに欠かせない設備、積み重ねてきた日常の営み、そして私たちが大切にしてきた“場”そのものが、黒煙とともに消えていったその現実は、今なお言葉では言い尽くせません。それでも、この一年を振り返ったとき、私たちの記憶に強く残っているのは、“喪失”そのものではなく、“支えられた記憶”です。火災直後から、地域の皆様をはじめ、全国の酒販店様、飲食店様、関係各所の皆様、そして日本酒を愛してくださる多くの方々より、温かい励ましとご支援を賜りました。数多くのお言葉、行動、そしてお気持ちが、どれほど私たちの背中を押し、前を向く力となったかは計り知れません。この場をお借りして、改めて心より御礼申し上げます。
現在、水谷酒造は県内酒蔵の皆様のご協力のもと、「共同醸造」というかたちで酒造りを続けております。とりわけ、このたび共同醸造にご尽力くださった各酒蔵の皆様には、言葉では尽くしきれないほどの深い感謝を申し上げます。これは単なる製造の代替ではなく、他蔵の醸造哲学や技術に触れる貴重な経験であり、自らの酒造りを見つめ直す機会ともなりました。各蔵が大切にしている想いや工程に学びながら、水谷酒造として何を受け継ぎ、何を未来に紡いでいくべきかを、日々問い直しております。私たちは、伝統とは単に形を守ることではなく、時代とともに問い続け、進化していく姿勢にこそ宿るものだと考えています。いま、私たちは「失ったからこそ得られた視点」を胸に、これからの蔵の在り方、酒の在り方を、一歩一歩、模索しています。
再建には、まだ時間を要します。しかしながら、私たちは決して歩みを止めることなく、挑戦を続けてまいります。酒造りの再出発を経て、新たな蔵の構想も少しずつ動き始めております。私たちが目指すのは、かつての姿を“取り戻す”ことではなく、今という時代だからこそ築き上げられる、新たな水谷酒造の姿です。それこそが、皆様への感謝に応える道であり、私たちの使命であると信じております。これからも、一本一本の酒に真心を込めて、丁寧に、誠実に、皆様へお届けしてまいります。この一年間に賜りましたすべてのご支援、ご厚情に、改めて深く感謝申し上げますとともに、今後とも変わらぬご指導、ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
水谷酒造株式会社
代表取締役 水谷 政夫
専務取締役 立松 豊大
醸造家 後藤 実和